娼年 [小説]
1997年に『池袋ウエストゲートパーク』でオール読物推理小説新人賞を受賞・デビューした石田衣良著『娼年』読了です。いいよーと薦められて何冊か借りたんですが、直木賞を受賞した『4TEEN』を先に読めばよかったかな?とりあえず読了メモなどを…。
ストーリー自体はとてもありきたりというか、起承転結がはっきりしているというか。母親に置いてきぼりにされた少年が、女性に対して何の興味も失って生きていた時現れた一人の女性に"娼夫"として雇われる。さまざまな女性とのデートやセックスを通し、彼は女性や愛の形を学んでいくが…?という感じです。全く何のどんでん返しも無くさらっと進むのですが、端々に散りばめられた言葉が人間の本質をえぐっていくようで、非常に興味深く最後まで読めました。特に以下の部分に、現れるような文章です。
ぼくが話したかったのはセックスの不思議についてだ。
ぼくたちは自分で設計したわけでもない肉体の、ごくわずかな部分に振りまわされて一生をすごす。過剰な欲望をもつ人は生涯を檻のなかで送ることもあるだろう。それほど極端でなくても、平均的な欲望のもち主でさえ長くはない人生の何万時間かをセックスについて空想し、無駄に潰してしまう。
アズマやイツキさんのような混線した人間、シンヤや御堂静香のように過剰な欲望をビジネスに変える人間、そしてぼくのように肉体を売りながら欲望の不思議を追いかける人間。この世界の途方もない複雑さと同じだけの深さが、ただのセックスにあるのだという事実が、その夜ぼくを圧倒していた。(本文より)
「この世界の途方もない複雑さ」と同じくらい複雑な深いモノが「セックス」にある、という「事実」に気付き、そして彼は愛とは何かを探り始めるのです。
"娼婦"と"少年"が混線したタイトルからもわかるように、この物語は子供が大人になる過程において、欠落した何かを肉体的なもので探ろうとするというテーマが描かれているように思えます。肉体的快楽だけでないセックス、生殖行為だけでないセックスについて考えることも、精神的なつながりを模索する良いきっかけになるのではないかと思えてなりません。
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