幸福な王子 [小説]
童話が続いているなあ~と思ったので究極の童話をご紹介。
オスカー・ワイルド著『幸福な王子』です。おそらく子供の頃に誰しもが読んだであろうお話です。黄金の王子像が、ツバメに頼んで自分の飾りである宝飾を皆に配るという。オスカー・ワイルド自身はゲイでロマンティストで…というイメージが先行しがちなのですが、彼のその一種のピーターパン・シンドロームのような部分が、このような素敵なお話を作ったと思えるのです。
本当に美しいもの、本当に輝くものはいったい何なのか、大人になって日常に追われている私たちが一番思い出したいことが、この作中にあります。
英語版で読むのもお勧めです。↓は今やハリウッドで超人気モノになってしまったオーランド・ブルームの初出演映画です。ワイルドの人生を追うなら映画からもお勧めです。ジュード・ロウがまたいいんですねー。ちなみにオーランド・ブルームは一瞬しか出てきません!が、スター性を感じるに充分だったと思いました。
恋愛格闘家 [エッセイ]
これは小説のジャンルには入らないなあ…と思って新たにエッセイの項目を作りました。
アルテイシア著『恋愛格闘家』です。
もともとはMixiで大人気だった『59番目のプロポーズ』、それにいたるまでの道を回想する、今だから話せる当時の恋愛、というのがメイン・テーマになっています。59番目のプロポーズは、私もMixiで読んで、その後本も購入しました。ものすごーーーーく共感できた部分というのが、院生ごときでは"キャリア"なんておこがましいですが、公立大学に行っているとどうしても言われるのですよ、合コンで「そんな頭のいい人と何はなしていいかわかんねーよなー」というようなことを!私たちだって毎日文学のこととか思想史のことばっかり話しているわけ無かろうが!と「喝!」です。
大体、パートナー選ぶのに学歴なんて関係ないじゃないですか。(なかにはそういう人もいるでしょうが)もっと大切なことは他にあるでしょう?という私たちの気持ちを代弁してくれたアルテイシア氏。
そしてこの書き下ろしの『恋愛格闘家』では、彼女自身がどんな風に傷つき、そしてどうして傷ついたのかを赤裸々に、冷静な視点で描かれています。
すべての人に当てはまるとは思いませんが、恋とは「相手の魂を乞うること@ガラスの仮面」だと信じている私には、理想と現実のバランスのとり方をうまく説明されているように思えました。
これは、女性だけでなく、是非男性にも読んでいただきたい1冊です。
↓こちらは漫画化して、ドラマ化もするようです。他メディア移行に関しては、ドラマはともかく漫画はうまいこと描けていたと思います。オタク要素が強いので画像があったほうがわかりやすいという一面がどうしてもあったので…。
復活の日 [小説]
もうすぐ『日本沈没』が再映画化するので、小松左京先生の本を再読。素直に『日本沈没』を読もうと思ったのですが、映画見てから再読した方が良いかなーと思ったので、今回は小松左京著『復活の日』を。
MM88菌という未知のウイルスによって人類が滅亡する!という、まさに恐竜細菌絶滅説のようなことが現実に起こってしまったら?という近未来SFです。これを読んだ当時"白い粉"が各所に送りつけられるという事件があったからか、鮮明に記憶に残っていました。(あと、川原泉著『バビロンまで何マイル?』のなかでも何気に引用?されてましたしね)
女性の扱いが問題になっていますが(読めば解ります。女性なら怒りを覚える可能性もあります)滅亡という究極の事態に陥った場合、正気を保てる人間がどれほどいるものか…。時代的にもある程度仕方ないかな、と思うしかないところも。(田嶋先生には「穴と袋!」と怒られそうですが)そういった極限での人間のエゴを、うまく作品内で描いていると思うのです。
事態は細菌での滅亡の危機に留まらず、更なる事態へと…?!
最後まで目が離せない、珠玉の1冊です。再映画化はそういったジェンダー的な問題で難しいかもしれませんが、是非見てみたいと思います。
↓これは漫画ですが、川原泉先生の漫画は、非常に哲学的で、底辺にやるせないせつなさが漂っているところが大好きなのです。MM-88の話題が出ているというだけでなく、話も面白いので是非読んでみてください♪
功名が辻 [小説]
今の大河ドラマでもやっている『功名が辻』の原作、司馬遼太郎著『功名が辻』を再読。
昔テレビドラマでやっていたときは、毎回ビデオにとって楽しんだものです。千代役を壇ふみが演じていたバージョンですね。ナレーションが凄く良かった記憶があります。あとは小雀のエピソード!
私はもともとミステリーやSFより歴史モノが好きで、一時期ものすごく乱読していたのですが、最近また歴史モノが流行る兆しが見えてきて嬉しい限りです。
私の祖父母は土佐出身なので、もともとこういった「内助の功」には縁があるように思うのですが、この時代の夫婦がお互いの意見を尊重して生きていたということは本当に素晴らしいことだと思います。女性が上でも男性が上でもない(形的には夫を立てる、というのがありますが)お互いがお互いの気持ちや意見を大切にして生きるという姿は、決して内助の功というものではなく、理想のカップルの姿だと思うのです。要はどちらが外に出るかであって、両方が外で働くのであれば、場に合わせてお互いを立てていけばいいわけですから。
そんな、現在にも通じる夫婦観を、この作品は提示しているように思うのです。だからこそ、千代を良妻賢母(母にはなれなかった部分もありますが)の鏡のように言うのは、少し違っているのでは?
注文の多い料理店 [小説]
伊坂幸太郎の『魔王』読了以来、読みたかった宮沢賢治を再読してみました。
宮沢賢治著『注文の多い料理店』ですが、これは作者が自分自身で以下のように述べています。
「注文の多い料理店/二人の青年紳士が猟に出て路に迷い、「注文の多い料理店」に入り、その途方もない経営者からかえって注文されていたはなし。糧に乏しい村のこどもらが、都会文明と放恣な階級に対するやむにやまれない反感です」
この作品には、いわゆる有島武郎的な、人間のエゴイスティックな部分を肯定しつつ、それを子供にドラスティックに見せていくというテーマが潜んでいるように思えてならないのです。当たり前のことを当たり前に伝えるという大前提があってこその童話、そのような作品こそ、宮沢賢治の真骨頂だと思います。
京極夏彦スペシャル2 [小説]
夏だ!妖怪だ!京極だ!
ということで、姑獲鳥の夏はもうご紹介したので、今日は"京極堂シリーズ"一挙ご紹介していきたいと思います。
『魍魎の匣』
第49回日本推理作家協会賞を受賞した作品です。
美少女バラバラ殺人事件がメイン。"ハコ"と組み合わせて考えてみてください。大体正解です。憑き物おとしが今回も痛快です。これもなんとなく(何かわからないハコを持つというあたりが)金田一少年にも出てきたなーという感じ。ラストに力があるので「もうちょっともうちょっと」と言う間に読み終わってしまう作品です。閉所という特殊な空間が持つ力が、十二分に発揮されている作品と言えると思うのです。
『狂骨の夢』
伊佐間一成(いさま屋)が中心人物になった作品。今回は謎解きが100P以上もある!のです。死霊となった元夫と、それを殺してしまった妻。髑髏が非常に不気味なのですが、髑髏が何を象徴するのか、非常に考えさせられるのが正直ウマイです。不思議が不思議でなくなる整然とした憑き物おとしの熱が突き抜けていく一瞬が、とても読んでいて気持ちの良い作品です。
『鉄鼠の檻』
中禅寺・関口夫妻が箱根湯本富士見屋に舞台を移しての四作目。世間では失敗作との評判が高いのです。見立て殺人が見立てになっていない、動機が(説明を聞いても)よくわからない、最初のシチュエーションだけで犯人がわかってしまう、など、ミステリじゃないだろう!という声が多々…。最初の僧侶の死体に関しては榎木津がさっさと解いてしまうのですが、事件は連続僧侶殺人事件へと発展してしまうというストーリーです。確かにちょっと昇華不足…消化不足の感は否めません。
『絡新婦の理』
前作は何だったのか?!と思えるほどのクオリティの高さ!!!私はこの作品が一番好きです。
閉鎖的な空間ならではのオカルティズムをうまく作品の鍵のひとつに利用している点。男女の情の形の豊かさが表現されている点。さらに女郎蜘蛛というだけあって、蜘蛛の糸のように絡まる情報を、憑き物おとしでうまく整合させる姿が久々の好感触。最後そしてさらに…というオチが完璧に「やられた!」という感じで、もう盛りだくさんの内容に大満足です!
…さすがにここまで書いてきたら疲れました…。「塗仏の宴」二作と「陰摩羅鬼の瑕」は次回!
蛇にピアス [小説]
ようやく世界につながった気がします。
ここ数日は学会関係のことで忙しくて更新できませんでした。
今日は金原ひとみ著『蛇にピアス』です。
金石範がこの作品についてこのように述べています。
いい作品ですよ。私が感心したのは、若い女の子が日本社会のニヒリズムを見事なまでに感じ取っていたことでね。蛇の舌みたいなスプリットタン、体中の入れ墨、大きなピアス……。無邪気に真摯に傷つけあいながら、大きな水槽のなかの金魚みたいに喜んで泳いでいる。ぞーっとした。無臭のニヒリズムですよ。目的もなく、ぬるま湯につかって。歴史がわからない、わかろうとしないのも、この浮遊感のせいじゃないかと思えてきた。 (「不信を乗り越えて-日朝首脳会談から3年」『毎日新聞』夕刊 2005年9月29日)
芥川賞受賞で話題になっていた頃、私も読みました。周りの反応は、まちまち。アマを思う気持ちが切なくていいとか、グロくて現実味がないとか、とにかく賛否両論だったことが驚きでした。その後他メディアに移行して読んだという人も多かったけれど、私は是非原作である小説を読んでほしいと思います。金石範の評価を知って再読しましたが「無臭のニヒリズム」と言われるとまさにそのような感じだと思います。私が最初に読んだときに感じた空虚感は、この無臭さにあったのかもしれません。
「何か」を傷つけることでしか自分の存在を証明出来ない、世界の中に溶けてしまいそうな透明感が誘発した犯罪も多い現代社会で、それでも必死に生きていこうとする人間が、この作品には描かれていると思うのです。
痴人の愛 [小説]
今でも色あせない名作。
それはもちろん山のようにあるのですが、特に谷崎潤一郎の作品は現代の私たちが読んでも充分に共感しうる内容だと思うのです。
谷崎潤一郎著『痴人の愛』は、いうなれば「マイ・フェア・レディ」?「プリティ・ウーマン」?それとも「源氏物語」?美少女を見つけ出し、自分好みに育てて妻にする。そんな作品は古今東西たくさんありますが、日本の妖婦の代名詞となった"ナオミ"は、主人公譲治を逆に翻弄していきます。
実際、男性に見初められて淑女として育てられる、ということは女性にとって幸せなのでしょうか?
男にとって女性を自分好みに育てるということは最高!
というような話をたまに耳にしますが、ある人間がある人間を自分の思い通りに育てようとすると、(それが親子でも)どこかに絶対ゆがみは生じると思うのです。『痴人の愛』はまさにその"ゆがみ"を本質的に捉え、提示してくれています。大正末期の風潮のなか、ガラスの箱庭を破るには相当の痛みや怪我が必要だっただろうに、それを成し遂げられる人物"ナオミ"を創造した谷崎は、やはり天才だとしか言いようが無いのです。
しかし実はプリティシリーズも大好きなのでした。特にプリティ・ウーマンとプリティ・プリンセスが好きです。このシリーズでは、育てられるところまでは同じでも、外的変化のみで内的変化はあくまで"自分らしく"がモットー(さすがハリウッド)、キューティ・ブロンドは外的変化ではなく内的変化によって劇的に変身するところが見ていて爽快!
プリティ・ウーマン 特別版
プリティ・プリンセス 特別版
キューティ・ブロンド 1 & 2 ダブルパック
愛がなくても喰ってゆけます。 [漫画]
漫画の読了日記でもあるのに、漫画の紹介がまだでした。
というより、正直漫画のほうがたくさん読んでいるので、読了日記が追いつかないのもあるのですが…。今日はよしながふみ著『愛がなくても喰ってゆけます。』です。よしながふみといえば、『西洋骨董洋菓子店~アンティーク~』がドラマ化し、人気に火がついた印象がありますが、今も昔も変わらずリアリズムの追求を漫画という手法で行っている姿に非常に感銘を受けている次第です。
本書では、作者自身?がYながとして登場し、東京近辺の行きつけのおいしい飲食店を紹介するエッセイコミックです。ただ、普通のエッセイコミックと違う点は、他のよしなが作品に共通するようにこの作品にもエゴイスティックな人間像が赤裸々に描かれている点にあります。そして作者自身が食を愛してやまないことが、紙面を飛び越えて読者にまで伝わってきます。グルメエッセイコミックの"核"である、視覚以外の五感を呼び覚ます力を、この漫画は持っています。
東京圏に行く機会のある方は、是非一読してからの渡航をお勧めします。
やっぱりそして『西洋骨董洋菓子店』も好きなのですよ。作中にゲイが登場しますのでそういった性的嗜好に抵抗がある方にはお勧めできません。ドラマの方は"リングのジャニーズ"こと、本物のジャニーズタッキーと、椎名氏のギャルソン姿が非常に眼福です。
楊貴妃伝 [小説]
先日の記事の金田一少年のくだりを書いたのは本当に偶然なのですが、よく考えてみたらテレビで探偵学園Qをやっていたのですね。知らないところで人間の脳には色々な情報がインプットされているようです。
さて、本日の読了本は井上靖著『楊貴妃伝』です。
傾城の美女として知られる楊貴妃の生涯を綴った小説なので、伝記モノにもなるかもしれませんが、そんな単純な小説ではない!のです。私は昭和四十七年出版の文庫を持っていますが、全集では15巻に入っています。
舅である玄宗皇帝に妃として望まれた楊玉環は、望むと望まざるとに関わらず、運命を受け入れ、後宮に入り、陰謀渦巻く宮中の闘いにその身を投じることになります。権力者の意外な素顔、楊貴妃となるまでの苦難、愛の不思議。外見などが細かく描写されているせいか、本当に自分が主人公になったかのように感じます。
悪女のように言われがちな楊貴妃ですが、決してそれだけでなく、運命的な短い生を送った一人の女性だったのだと、この小説を読んでもう一度再考していただければ、と思います。
↓今ちょっと見てみたいと思っているDVD。ここまで酷評されているとかえって見てみたくなるものです。